■心が粉砕骨折

いわき駅にて、くらたは翌日仕事ということで高速バスで東京に帰ってしまった。
二人旅はあっという間に終わり、引き続き一人旅に戻る。

二人旅やった後に一人になるとものすごい寂しい。

でもこの日私はひとつチャレンジしたいことがあった。


それは


お寺に泊めてもらうこと。


お寺って、来るもの拒まずみたいな感じで旅人はもちろん泊めてくれるだろうっていう期待があったからだ。
そうでなくても旅人を受け入れてくれる姿勢ですごくやさしいだろうっていうイメージがあったからだ。


飛び入り「田舎に泊まろう」は難しくても、お寺なら一人で行けるかもって思って、
地図でお寺を探してそこに向かってみた。

一つ目は門が閉まっていて中にすら入れなかった。


二つ目はちょっと歩いたところにあって、大きい公園の近く。
お寺がダメだったらそこの公園でテントでも張るか、と思っていた。


二つ目のお寺は中には入れたが、本堂や境内には人影はない。

もう夕方だから家に入ってしまったのだろうか、本堂とつながったご立派な家の中に人影は見えた。



う・・・境内にお坊さんでもいれば話しかけやすかったのに・・・
家はブザーを押してインターホンで話す形になっている。




この状況にかなり怖気づいて、本当に行こうか行くまいか勇気が出ず、

30分ほど家周辺をうろうろうろうろしてた。


そのうち日が暮れてきてあたりは真っ暗になってきた。


だー!勇気出せ!私は旅人だ!ダメもとでぶつかれ!



決心を固めた私は勇気を絞りに絞って、ブザーを押した。



ピンポーン



緊張しまくりで心臓バクバク。



はい。


とインターホンから男性の声。


おちつけ。


「あの、突然すみません。私今バックパックで旅をしてる者なんですが、今晩泊めて頂けるおうちを探してるんです。
 突然のお願いであつかましいとは思いますが、今晩ここに泊めて頂けないかなぁと思いまして・・・。」



言えた・・・!頑張った自分!
さて返答は!??





「え??旅してる方ですか?今晩泊まるところないんですか?


なんでうちなんですか?」



え、なんでって言われても・・・


「失礼ですが御身分は?」
「お金に困ってるんですか?」



・・・明らかに不審がっている。


まずい。
たぶんダメだ、早めに諦めて退散したほうがいいかも。

「あの、難しいようでしたらいいんです。テントも持ってますので。突然すみませんでした。」



「そこの公園でテント?あそこはホームレスがいるからやめた方がいいですよ。
 それより、駅前のビジネスホテルは3000円台で泊まれる安いところがたくさんあるからそこに泊まった方がいいと思いますけど。」



早くこの場を立ち去りたいと思った私は

「わかりました、そうします。ありがとうございました。」


と早口で答えた。



すると、


「ちょっと待ってて下さい。今家の者がそちらに向かいますので。」



と男性は言ってインターホンが切れた。


え、もしかしてかわいそうに思って泊めてくれる気になったのかしら?
・・・んなわけないよなぁ。

家の人が来るまでの時間いたたまれなくて、顔を合わせる前に走って逃げたかった。



しばらく待ってるとドアが開いて、顔を出したのは
その家の娘さんらしき若い女性と奥さんらしき女性。


「あの、ほんとに突然の訪問すみませんでし・・・。」




最後まで言い終える前に私の眼に飛び込んできたものは



若い女の子が手に持っていた

現金3000円


その女の子はとても哀れんだ目で私を見て

「あの、お金持っていないようでしたら、これでホテルに泊まって下さい。」




とどめの一言で私の心はバッキバキに折れた。


「い、いえ、別にお金に困っているわけではないんです。お金ならあるので大丈夫です。ほんとに失礼しました。」



そう言って後ろも振り返らず足早にその場を立ち去った。


あまりにへこみすぎて、涙が溢れそうになる。

行くんじゃなかった・・・


激しく後悔する。



結局その夜は公園でテントを張る気にもなれず、言われた通り駅前の安いビジホに泊まった。




世の中甘くないな。



後悔はしたけど、でもたぶんあそこでチャレンジしなかったらもっと後悔してただろうなと思った。
チャレンジしなかったら結果がわからない。
気になって気になって、なんで行かなかったんだろうってもっとずっと後悔してただろうから、
やっぱりチャレンジしてよかった。



人生失敗して強くなるんやなぁって一生懸命自分を励ました。







【前へ】     【次へ】

【もとのページ】
inserted by FC2 system